Chapter-1 The Atom Project and RSS

1章 The Atom Project – RSSの興隆からAtomの誕生

最終更新日:2005/03/03   © Witha System, Ltd

Witha System » Atom目次
» [1章 The Atom Project – RSSの興隆からAtomの誕生]
» [2章 Atomフォーマット – The Atom Syndication Format]
» [3章 Atom出版プロトコル – The Atom Publishing Protocol(AtomAPI)]
» [4章 The Atom Publishing Protocol(AtomAPI)の利用法]
» [AtomやAtomAPI関連のニュースや仕様へのリンク]
» [RSS 2.0 と Atom 1.0 の比較]

1章:RSSとAtom

はじめに

最近、ウェブサイトに「このサイトと連携する(XML)」や,「Atom」,「RSS」といいたリンクを見かけたことはありませんか?本稿では,このRSSやAtomとは何か,また両者の違い,さらに第三章ではAtom出版プロトコルと呼ばれるAtomの新機能などについて詳細に解説していきます.

RSSとは

RSSとは、サイトの最新の情報を見出しや要約として配信するためのフォーマットで、XMLで記述されています。代表的なバージョンはRSS1.0とRSS2.0です。RSSはバージョンや人によって、RDF Site Summaryの略であったり、Rich Site Summary、Really Simple Summaryの略であったりします。

RSSの流行

日本でRSSが注目されるようになったのは2003年頃からでしょうか。ちょうど日本でウェブログが注目され始めた頃です。MovableTypeなど,広く使われているウェブログのツールには標準でRSS(RSSなどを一般にフィードと呼ぶ)を配信する機能がついていました。
また多数の一般的なニュースサイトの記事見出しをRSSに変換して配信するサービスも現れ、RSSを取得して閲覧するためのクライアントソフト(RSSリーダやアグリゲータと呼ばれる)も多数開発され公開されました。最近ではウェブブラウザのFireFoxやメーラのThunderbird、OperaのメーラにRSS取得機能が標準搭載され話題になりました。
ウェブログが広まるのと同時に大手ニュースサイトなどがRSSによるニュースの配信を行なうようになり、RSSの利用はますます広がりを見せています。現在では、メルマガに替わるマーケティングとしての用途、スケジュールを配信するカレンダーとの連携、オークションの出品情報の配信など様々な状況で使われるようになって来ています。
 海外では,ワシントンポスト紙,ヴィレッジボイス紙,BBC News,ニューヨークタイムズ紙など有名な新聞やニュース配信社は独自にRSSでニュースを配信しており,日本の主な新聞社では朝日新聞だけがRSSを配信しているのとは対照的です.
さらに,技術系のウェブサイトではマイクロソフト社やボーランド社を含め,IT系ニュースサイトは多数RSSを配信しており,RSSなどによる情報の配信はある意味常識となってきました.
特に米国ではRSSの一般ユーザへの広まりは顕著で,その発端となったのは,米Yahoo!がMy Yahoo!という個人用にカスタマイズしたパーソナルページに,RSSを取り込んで最新のニュースやウェブログの記事を読めるようにした事だと思います.

米Yahoo!のRSSに関する取り組みは,My Yahoo!だけではなく,Yahoo! のニュース検索でも使われています.Yahoo! Newsを使って検索すると,検索結果のページにMy Yahoo!への追加ボタンとXMLボタンが表示されます.このXMLボタンを利用して,RSSリーダに登録すれば,キーワードにマッチする新しいニュースをRSSリーダで追いかける事が出来ます.「米Yahoo! ニュース検索」
http://news.search.yahoo.com/

このように,海外ではRSSは一部の人が使うというものではなく,すでに一般のユーザが利用出来るものにまで広まっていると言えます.

RSSリーダ

最もスタンダードなRSSの利用法は,いわゆるRSSリーダを利用する方法です.これには,様々な種類があり,主な種類はメールのような3ペイン型のクライアントソフト,デスクトップに貼りつくスティッカ型,ソフトウェアのインストールの不要なサーバ型などがあります.これらは,ユーザが好きなウェブサイトのRSSをRSSリーダに登録し,RSSリーダが定期的にRSSを取得して,ユーザが読んでいない見出しのみユーザに提示します.ですから,数百に上るウェブサイトの更新情報をも効率的に短時間でチェックするといった事が可能になり,非常に人気があります.
最も人気があるのは,どこにいても読めるウェブ上のRSSリーダ,特に海外のサービスですが,「Bloglines」と,快適に動くクライアントソフトが人気を二分しているようです.

「Bloglines」
http://bloglines.com/

日本では,RSSリーダという名称が定着してしまったようで,Atomには対応していないかのような印象をもたれるかもしれませんが,ほぼすべての主要RSSリーダはAtomにも対応しています.
これら,RSSやAtomといったXML形式のフィードを取得して閲覧するためのクライアントソフトの事を,特に海外ではアグリゲータと呼んでいます.Atomについての本稿でも,RSSリーダと呼ぶのは違和感があるので,以後アグリゲータとします.

RSS検索エンジン

このように,種々のウェブサイトの情報を直接取得出来るだけでなく,もっとスマートな利用方法もあります.RSS検索エンジンと呼ばれるものを利用すると,特定のキーワードの検索結果をRSSで取得することが出来るのです.その検索キーワードでカスタマイズしたRSSをRSSリーダに登録しておけば,一種のリアルタイムの市場調査のようなことが出来ます.ある特定のキーワードについて,ウェブログなどで,どのような話題になっているか,毎日メールを受け取るように,RSSリーダでチェックする事が出来ます.
利用方法はとても簡単で,通常の検索エンジンで検索するのと同じように,キーワードを入力して検索ボタンを押すと,ブラウザ上で検索結果を確認する事が出来ます.通常その検索結果のページに「XML」や「RSS」といったボタンがありますが,これがRSSへのリンクとなりますので,それをRSSリーダに登録すれば完了です.

主なRSS検索エンジン

「FeedBack:FeedBack – Yet Another RSS Search

「BulkFeeds:RSS Directory & Search」

「未来検索Livedoor」
http://sf.livedoor.com/

海外では,Feedster(http://www.feedster.com/)やTechnorati(http://www.technorati.com/)といったサービスが有名です。どちらも日本語が通りますし,Technoratiは近いうちに日本に上陸するとの話も上がっています.

これらの検索エンジンの特徴は,
1.検索結果に反映されるのが早い
GoogleやYahooといった通常の検索エンジンと比べて,ページが更新されてから,それがRSS検索エンジンに表示されるまでの時間はとても早いです.これは,通常の検索エンジンがロボットと言って,自動化されたソフトウェアがウェブサイトを巡回して更新を見つけるのに対して,RSS検索エンジンは主にウェブサイトの更新の通知を受け取り,その段階でウェブサイトのRSSを取得するからです.この通知は,アップデートPingと呼ばれています.
2.より正確
RSS検索エンジンは,RSSフィードを解析するので,ページ内のメニューや広告などの余計な情報まで解析してしまうという事がありません.通常の検索エンジンと比べ,純粋にRSSに含まれる内容を検索の対象にするため,より正確な結果を期待できると言えます.

RSSが広まった理由

RSSがこれだけ広まった理由というのは,第一に手軽さというものが上げられると思います.RSSを用いてウェブサイトの更新情報などを配信するには,RSSというXMLフォーマットの一つで記述し,ウェブサイト上にHTMLファイルと同じように設置するだけです.また,MovableTypeに代表されるように,ウェブログや日記系のツールが,HTML用のページと共にRSSを自動で生成するような機能をつけたことも大きいと思います.殆どのユーザは何も考えずに,書く事に専念し,知らず知らずにRSSを配信していたのです.
次に,スパムの蔓延が上げられます.メーラには日々メールとスパムが溜まり,メールマガジンなどを通して効率的に情報を収集する事は限界があります.また,スパムを嫌い,安易に自分のメールアドレスをどこかに登録するのが躊躇われるという風潮になってきました.RSSを用いれば,特にそういった心配はありませんし,RSSによる購読を中止する事も非常に簡単です.
さらに,オープンスタンダードがキーワードでした.誰もが自由に使えたのです.誰もXMLをベースにしたRSSを利用するために利用料を払う必要もありませんし,ベンダに振り回される必要もありません.もっとも,RSSは後述するように,完全にオープンな仕様であるとは言えませんが,それについては詳しくは後ほど解説したいと思います.
具体的に,以前実際にあった例をもとにRSSを比較して見ましょう.1990年代終わりに,一時流行し華々しく散ったPointCastを覚えている方はいらっしゃるでしょうか.PointCastは,一時は新しい情報配信のメディアとして日本でもかなり話題になりましたが,結局事業としては失敗してしまいました.
最近でも,日本のポータルサイトを運営するエキサイトが,PointCast復活を目指してニュースや天気予報 など様々なコンテンツの配信サービスを始めながら,現在ではサービスを停止しています.
PointCastが失敗した原因は幾つかあると思いますが,情報やサービスを独占していた事が今でも指摘され続けています.つまり,PointCastがすべてをコントロールしていたのです.それゆえ,個人で情報を配信したりPointCastのネットワークを利用したソフトウェアを開発するといったことが自由に出来ませんでした.
RSSは個人でも自由に使える上に,シンプル,簡単に利用できるものという,大きな特徴あります.

RSSの歴史

はじまり - RSSはどのようにして始まったのか

今のRSSという形で世に初めて出たのは、1999年3月、Netscape Communication社が自社ポータルサイト、My NetscapeでRSS(RDF Site Summary) 0.90 を利用したのが始まりでした。これは、1997年にUserLand Software社により開発されたscriptingNewsというフォーマットをもとにNetscape 社により開発されたものでした。
当時、サイト運営者はRSSファイルを作成し、「My Netscapeに追加(Add channel to my netscape)」ボタンをページに設置することで、サイトの情報をMy Netscape において、channelとして配信することができました。これにより、ユーザーは自分のMy Netscapeページに様々なサイトからの新鮮な情報をRSSを通して取り込むことが出来たのです。米Yahoo!で最近始まったMy Yahoo!のサービスでもほぼ同様のことを行なっています。
しかしながら、Netscape 社は2001年の初め頃から外部のRSSを取得することをやめ、次第にRSSを利用しなくなりました。その間、RSS-DEV Working Group と呼ばれるコミュニティによりRDFをベースにしたRSS1.0が開発(2000年)され、それと並行してUserLand Software社によってRSS9.1、RSS9.2そしてRSS2.0が開発されるなど混乱の様相を呈します。

仕様の凍結

RSSの仕様はNetscape 社に始まり、UserLand Software社など特定の会社が管理してきました。つまり,RSSの仕様を変更したりするのに,外部の人間が自由に同じ立場で参加することが出来なかったのです.さらに,RSSを拡張するのに制限をかけようとしたりといった事も重なり,これに批判的な人達との対立が表面化しました。
最終的に,RSSを管理してきたUserLand Software社のDave Winer氏が仕様を凍結する結果にいたり、RSSに根本的な改良を施すことが出来なくなりました。そして,種々の批判に反論するかのように、RSSはDave Winer氏と共にハーバード大学に移管され、現在はクリエイティブ・コモンズのライセンスの下にRSS2.0が公開されています。

タイムライン:時系列に追うRSSの歴史

1997年12月27日 UserLand Software社によって,「scriptingNews」が開発される.

1999年3月15日 RSS 0.90:Netscape社によって,RDFベースのRSSが開発される.

1999年10月7日 RSS 0.91:Netscape社による,RDFを取り除き,scriptingNewsを元にさらに機能を増やしたRSSを公開.この間,Netscape社,RSSを見捨てる

2000年6月4日 RSS 0.91:UserLand Software社からバージョンが同じRSS0.91仕様が公開される。

2000年8月14日 RSS 1.0:コミュニティベースのグループによる提案という形で開発され公開される。モジュールと名前空間を使ったRDFベースの新しいフォーマット.

2000年12月25日 RSS 0.92:UserLand Software社.

2001年4月20日 RSS 0.93:UserLand Software社.(検討されたが完成せず)

2002年8月 RSS 0.94:UserLand Software社.(検討されたが完成せず。しかし,この間議論されたものが、後のRSS2.0となる)

2003年7月15日 RSS 2.0:仕様はUserLand Software社からハーバードに移管され、クリエイティブ・コモンズのライセンスで公開される.

Atomが出来るまで

Atomとは何か

Atomとは,ウェッブサイトの更新情報やコンテンツの配信,保存,編集を行なうための仕様群を指します.
Atomには大きく分けて二つの仕様があります.一つはRSSと同じく、情報を配信するための「Atom配信フォーマット」(The Atom Syndication Format),そしてもう一つはウェブ上のコンテンツを編集するためのプロトコル、「Atom出版プロトコル」(The Atom Publishing Protocol)通称Atom APIです.
また,「Atom Feed Autodiscovery」といって,HTMLで記述された通常のページからAtomフィードへのリンクを記述するための標準的な手法を定義した仕様もあります.これはRSSリーダ等のアグリゲータがソフトウェア的にウェブページに埋め込まれたリンクから自動的にAtomフィードを発見するための仕様となります.
つまり,Atom配信フォーマットによってユーザーは、RSSと同じく、Atomフォーマットに対応したソフトウェアを使ってインターネット上の情報を効率的に取得することが可能となります。
また、Atom出版プロトコルに対応したクライアントソフトから直接自分のウェブサイトやウェブログに書き込むことなどが出来るようにもなります.

名前の由来

元々,Pieのように簡単であるべきだという意味を込めてPieと呼ばれ,後にEchoとされましたが,あるオープンソースのプロジェクトですでに使われている名前であったため,紆余曲折を経てWiki上での投票によりAtomとなりました.頭文字で何かを表しているわけではありません,これは意図的に避けたようです.

なぜAtomが必要とされたのか

RSSがありながら,似たような機能をもつフォーマットを新たに決める必要があるのでしょうか.Atom開発の理由を一言でいうと、「RSSは古くなってきたし,新しい機能を追加したり,曖昧な仕様を直したりしたいんだけど,RSSはもう変更できない.だから皆で一からもっと良いものを作ろう」となると思います。また,混沌とした周辺技術を統一する一つの規格を決めようではないかという事も言えると思います.
1999年にNetscape社によりRDF Site Summary (RSS) 0.9として利用され始めてからすでに5年が経過したRSSは,時を経てさらに広範囲な用途に用いられようになってきました.RSSの仕様の変遷を見ても,始めは見出しとウェブページへのリンクだけだったものが,時を経て次第に要約を含めるようになり,コンテンツ全文,そして,マルティメディアの情報も配信できるように変化してきました
そして,複数の非互換性のあるバージョンの乱立や,下位互換性という制約,曖昧な仕様による混乱などの問題点が指摘され始めていたのですが,前述したようにRSSフォーマットを保有していたUserLand SoftwareのDave Winer氏はRSSの仕様を凍結し,RSSは2.0をもって根本的な改良は出来なくなりました.この他にも、フォーマットを巡るいわゆる”宗教戦争”ともとれる紛争もありました.

RSSに対する不満点

より良い物を常に求める人たちは,RSSの利便性や価値を十分に認めた上で,RSSに対していくらか不満を表明しています.
幾つか要点を上げると,以下のようになります.
・仕様が企業や個人にコントロールされている.
・機能を拡張しようとしても,制限されている.
・仕様に曖昧な所があり,更なる活用を阻んでいる.
上記二点はすでに簡単に説明してきましたが、第三点について具体的に述べると、例えば、RSSでは、コンテンツに含まれる記述方法について定義されていない項目が多々あります.例えば,記事のタイトル.RSSでは,タイトルにHTMLのマークアップが含まれても良いのかに規定がありません.また,含まれても良いとしてもどのようにエスケープするのかの扱いが曖昧です.
この問題は,RSSリーダなどを開発する際,非常に悩ましいものとなります.例えば,HTMLのマークアップをそのままマークアップとして表示するか,または単純に間違えとしてマークアップを取り除くか,それとも,HTMLを解釈してブラウザのように表示をすべきなのか.どちらにしても,配信者側の意図とは異なる結果となってしまうかもしれません.
RSSを生成し配信する側も同様な悩みを抱えます.HTMLのコンテンツをそのままRSSに含めるのか,エスケープして含めるのか,または,マークアップ自体まったく許可されていないのか…等々混乱してしまいます.実際,RSSの個々の記事のタイトルにHTMLのマークアップが含まれていて,RSSリーダでの表示が変になるという例も見受けられます.これは,RSSの配信者がいけないわけでも,RSSリーダが悪い訳でもありません.
さらに異なる種類のRSSが存在しているという問題もあります.RSSには,異なるバージョンだけではなく,異なる種類・系統のRSSがあるのです.主にRDFベースのRSSと,そうではないRSSの系列が存在します.
現在使われているRSSのバージョンは、RSS 0.9, RSS 0.91, RSS 0.92, RSS 1.0, RSS 2.0があり,複数のバージョンが今でも広く利用されています.そして悪いことにそれぞれが微妙に異なっており,完全には互換性がありません.厳密には,9種類のRSSのバージョンが存在すると言われています.
また,ウェブログなどを編集する為の仕様も,Blogger API, MetaWeblog API,など複数あり,さらにBloggerは新たな仕様を発表するなど,Atomプロジェクトが始まった当時は先行きが非常に混沌としていました.
後にBloggerは,開発していた新しいバージョンのBlogger APIを破棄して,Atomへの支持を表明し,積極的に支援して行く事になります.
こうした背景があったため,よりオープンで高機能,そしてシンプルで曖昧さを排除した新フォーマットAtomの裁定へ向けて人々が動き出しました.

Atomが目指しているもの

Atomを裁定するにあたり、以下の四つの目標を掲げています.
○特定のベンダに依存しない
○すべての人が自由に実装できる
○誰でも自由に拡張可能である
○明確に且つ詳細に定義する

裏を返せば,RSSはこれらの条件を満たしていなかったと言えます.AtomはRSSと違い,企業や個人が仕様の決定権を持つのではなく,オープンで中立で,良く議論され,検証された仕様を裁定する事を目標としています。
RSSでの経験を踏まえ、ウェブ上の情報の配信フォーマット,保存フォーマット,編集プロトコルを一つの統一された形で裁定し、HTMLがウェブページの記述言語として現在広く使われているように、Atomも今後10年でも使えるようにしっかりしたものを作るべく,現在,仕様の詳細が議論されています.
だれでも自由に名前空間といった機能を用いてAtomを拡張できるようにし,ニュースやサイトの要約配信にとどまらない,より多くの用途での利用を可能とするものです。

Atomの利点

Atomの良いと思われる点を幾つか簡単に説明すると,例えば,配信される内容は,summary(要約・概要)とcontent(内容)に明確に分けられます.今までRSSでは,descriptionを用いたり,RDFのコンテントモジュールを用いたりしていましたが,Atomでは内容そのものの配信と概要の配信が,明確に規定されますので非常に分かりやすいものとなります.
  また,コンテンツを配信する上で,どのようにAtomに埋め込むべきかを明確に規定しています.例えば,バイナリーのメディアファイルなどを,Base64でエンコードしてAtomフォーマットにそのまま埋め込んで配信するといった事も出来ます.
 RSSでは,個々のアイテムの識別にリンク要素が用いられていたり,同時に実際のウェブ上のページを指し示すものとして用いられたりしていましたが,Atomでは,識別するIDとリンクは独立した別のものになっています.
また複数言語のバージョンを一つのフィードに含めたりする事も可能です.
RSSとの一番目立つ違いは,標準化団体のIETF(Internet Engineering Task Force )で仕様が管理されるという事で,個人や一会社に支配される事がないという事が保証されています.さらに,後になって特許で訴えられるといったサブマリン特許も心配する必要はありませんし,RSSで問題になったような,RSSは誰の物かといった混乱は起こりません.
さらに,ウェブログサービスやツールでの共通のフォーマットとなれば,サービスを乗り換える際にAtomフォーマットでログを移行するといった事に用いられるでしょう.
コンテンツや更新情報の配信だけではなく,コンテンツ編集プロトコルとの共通の基盤を持ちます.このAtomAPIは,非常に幅広い利用が可能であり,Atomフォーマットはその核となる仕様である,という事です.
他にも人によって,見方によって,さらに沢山の利点が存在するかと思います.

誰が作っているのか

XML共同開発者の1人で,現在Sun Microsystems社で働いているTim Bray氏や、IBM社のソフトウェアエンジニアSam Ruby氏など著名な人達が中心となって、世界中に散らばった開発者やAtomに興味のある人達のコミュニティがメーリングリストとWikiを使い議論をし、仕様の裁定を進めています。
Atomの仕様裁定に加わるのは、通常のメーリングリストに参加するのと同じで、参加資格も制限もなく非常に簡単でオープンです。メーリングリストに参加している人達を見ていると,有名なRSSリーダの開発者達やBloggerを運営しているGoogle社の人達もいますし,SixApart社の開発者の方も活発に議論に参加されています.Microsoft社の開発者も個人の立場で参加されています.さらに,W3CでXMLの裁定に参加された日本の村田真氏も参加されています.
このメーリングリストでは誰でも,Atomの仕様に関して質問や提言をする事が出来ます。メーリングリストの過去ログも公開されていますので,興味のある方は検索すれば参照できるようになっています。

Atomの現状と展望

IETFにおける標準化作業

Atomは現在進行形で裁定が進んでいます。一時、「W3C(World Wide Web Consortium)」で標準化作業をしないか,という誘いもありましたが,コミュニティの全体的な総意という事で.2004年6月16日をもって,TCP/IPなど,インターネットの基盤技術に関する標準化団体「IETF(Internet Engineering Task Force)」にてAtomの標準化作業が進められることになり,メーリングリストの参加者全員が自動的に作業部会のメンバーとなりました。
現在,メーリングリストでは非常に活発(1日10~50通)な議論が行なわれており,新たな提案や投票などはWiki上で行なわれています。
標準化のロードマップとして、2005年の4月には,IETF を管理するインターネット技術標準化運営委員会 (IESG)にProposed Standard として提出する事を目標としています。

サポートする人たち

Atomが広く採用されるには,多くの人やツールの開発者に支持されることが不可欠です.すでにAtomに対しては現在多くの企業や開発者が支持を表明しています。AtomのWikiには支持者の一覧があり、その中にはMovableTypeの開発者,Bloggerを運営しているGoogleの開発者なども名前を連ねています。さらに,クリエイティブコモンズの提唱者で有名なスタンフォード大学ロースクール教授ローレンス・レッシグ氏やRSSに多大な貢献をしてきたDave Winer氏その人も一覧に含まれているのが興味深いと思います。

Atom対応状況

今もっとも多く使われているAtomのバージョンは、ほぼすべてIETFへ持ち込まれる以前のバージョンのAtom0.3です。事実,ほぼすべてのRSSリーダ,アグリゲータがAtom0.3のフォーマットを解釈していますし,代表的なウェブログのツールは,標準でAtomフォーマットを配信しています.
MovableTypeやTypePadの開発元のSixApart社やGoogleのBlogger,そして日本ではライブドアがすでに,このAtom0.3フォーマットだけでなく,ウェブログなどを編集可能にするプロトコル,AtomAPIも実験的にサポートしています.
また,Googleの運営するウェブメールサービス,GMailでは新着メールをAtomフィードで配信する試みなども行なわれています.
さらにSixApart社と携帯大手のNokia社の提携が先日発表され、2005年の初めにNokiaの携帯でAtomAPIをサポートする計画が発表されました。これにより、携帯からのウェブログの投稿および編集が可能になり,先日,これに対応したノキアの新機種が発表されるなど,話題は尽きません。

現状での限界と今後の方向性

Atomに関して,結局のところRSSの種類が一つ増えただけではないかという意見もあります.確かに,近い将来の内にRSSが消滅してAtomが市場を席巻する事はありそうには思えません.またRSSと比べて,Atomの決定的な優位性をすべての人に訴えるのは難しいかもしれません.
それでも,IETFという,しっかりとした標準化組織の後ろ盾を得たこのAtomが,今後更新情報の配信のみにとどまらず,コンテンツ自体の配信や、コンテンツの編集や保存形式としても用いられていく事は間違いないものと思われます.
つまり,HTMLがウェブブラウザで閲覧されるためにあるのだとしたら,Atomはウェブブラウザ以外で処理して何かをする、という風に用いられていくようになるのではないかと思います.現状では,ウェブログなどのコンテンツをAtom対応ソフトで取得して閲覧したり編集することが出来ますが,Atomはさらに,WWWをウェブブラウザから解き放つものになるのではないかと思います.
また,拡張前提であり,各用途に向けて,固有の拡張を定義していく,という作業が残されており,関係者が足並みを揃えて追加機能について議論し,連携していけるかどうか,という所が広く市場に広まるかどうかの試金石となるでしょう.
どちらにしても,まだ正式な仕様が決まっていない段階なので,市場がどのような用い方をするのかはまったく分かりません.本稿を読まれた方に少しでもAtomに興味を持っていただき,Atomを利用した新サービスが生まれることをこころから期待しています.

最新の情報

「AtomEnabled.org」(英語)
Atomに関する情報が良くまとまっています.さらにAtomを扱う各種言語のライラリやAtom対応ツールの一覧を参照する事が出来ます.

「Finally Atom」(英語)ブ

http://danja.typepad.com/fecho/
Atomに関する最新の情報をウェブログ形式で公開.

「Atom Publishing Format and Protocol (atompub)」
IETFでの最新のドラフトが置かれています.
http://www.ietf.org/html.charters/atompub-charter.html

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